幻惑の死と使途 - 森博嗣 -

幻惑の死と使途 (講談社文庫)

「一般論だから気を悪くしないでほしいんだけど、テレビのディレクタが押し付ける感動なんてまっぴらだよ。
オリンピックだって、テレビの台本じゃないか。
原発反対も、博覧会反対も報道されるのに、オリンピック反対が何故もっと大きく報道されない?
高校野球はどうしてあんなに美化される?マスコミはマスコミを何故攻撃しない?
浜中君。もし君が偏った価値観から自分を守りたかったら、自分の目と耳を頼りにすることだね。
テレビを捨ててしまえば、君の目は、少なくとも今よりは正しく、しかも多くのものを見ることになるよ」

 

「座ったまま、十センチくらい浮いたりとかは?」
「そうね。まあ、それは見る価値があるかな。だけど、そんな能力さ、役に立たないよなぁ」
「座ったままで高い所のものが取れるかもしれないけど、立ち上がった方が早いし、踏台に乗ればもっと高い所に手が届く。
十センチ浮くくらいで、うんうん唸ったりしたら馬鹿みたいだ。あんなのがどうして超能力なわけ?」
「じゃあ、テレパシィはいかがですか?」
「携帯電話くらいの価値しかないな」

 

「先生には、この事件より優先しなくてはならない問題があるんですか?」
「あるよ。いつだって、最優先の問題がある。世界で僕しか考えていない謎があるからね」

 

君に理解できるように話せないのは、僕の能力不足に起因している。どんな場合にも、受け手に責任はない

 

このまえ、君は、科学がただの記号だっていったけど、そのとおりなんだ。
記号を覚え、数式を組み立てることによって、僕等は大好きだった不思議を排除する。何故だろう?
そうしないと、新しい不思議が見つからないからさ。
探し回って、たまに少し素敵な不思議を見つけては、また、そいつらを一つずつ消していくんだ。
もっともっとすごい不思議に出会えると信じてね・・・。
でも、記号なんて金魚すくいの紙の網みたいにさ、きっと、いつかわ破れてしまうだろう。
たぶん、それを心のどこかで期待している。金魚すくいをする子供だって最初から網が破れることを知ってるんだよ。